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会場に入って、ちょっと驚いた。Chageの歌声が流れていたからだ。その時点では“さすが、チャゲトルズ。もう、なんでもアリなのね”と思ったのだけれど(笑)、席について開演を待ちながら「誘惑のベルが鳴る」や「MULTI MAXのテーマ」を聴いていると、少し印象が変わってきた。“この選曲って、単なるおちゃらけとかサービスとか、そういうんじゃないかも…”。そして、ライブの手放しな高揚を味わった後には、その開場中のBGMの選曲がなんとも味わい深く感じられることになった。

開場中に流れていた曲が発表された1980年代というのは、今となってはかなり評判の悪い時期で、例えば音楽シーンではテクノロジーの発達を受けて世界的に打ち込みの音楽が幅を効かすようになり、「ポップだけどキッチュ、つまり親しみやすいだけで本物感が薄い音楽が多い」みたいなことをよく言われるし、それでなくてもあの悪名高きバブルが時代を覆っていたからみんなちょっと浮かれていて、おかげで早く忘れてしまいたいことがたくさんあるんだろう。でも、景気のいい時代だったからこそ、誰もが大きな希望や無邪気な野心を抱いて仕事に向かい、あらゆるものを面白がる陽性のエネルギーに溢れていたこともまた事実だ。そして、月並みな言い方ながら、音楽はタイムマシーンのようなものだから、80年代の曲を聴けば、その曲を楽しんでいた当時の自分が簡単に甦ってくる。というわけで、日本中がやたらと元気だった頃の気分に会場の空気がアジャストされたところから、このツアーのステージは始まったと言ってもいいんじゃないだろうか。でも、今回のステージが、一筋縄ではいかないというか、見終わった後でそうした開場BGMが味わい深く感じられたのは、たとえばみんなが元気だった頃、若くてやんちゃだった頃をただ懐かしむような内容ではまったくなかったからだ。それどころか、この日のライブの主題はいつにも増して“今”だった。ただし、それは、80年代のやんちゃな時代を楽しみ、その後に続く混迷の時代をくぐり抜け、そして21世紀になり、あの未曾有の大惨事を経験してしまったけれども、それでもなんとか立ち直りつつある“今”だ。そういう奥行きのある“今”を、とびきりグルーヴィーで熱量の高い演奏で表現してくれたから、“キャーッと熱狂! 時々、爆笑。後ほど、じんわり抒情”てな感じのステージになった。

それはまさしくChageならではなのだけれど、それでも今回の特別な高揚感と一体感にはやはりチャゲトルズというバンド装置が欠かせなかったと思う。もっと言えば、新曲「GO!GO!GO!」のレコーディングを通じてよりバンド化したチャゲトルズを実感したChageにとって、バンドという、言葉で言い表せない深い人間のつながりを音楽として表現することこそが、震災から約1年後の仙台を目がけて実現した今回のツアーの最も大切なメッセージだったんじゃないだろうか。今回のツアーの会場で「誘惑のベルが鳴る」や「MULTI MAXのテーマ」を聴いて80年代の自分を甦らせたように、いつかどこかで「GO!GO!GO!」や「TOKYO MOON」チャゲトルズバージョンを聴いたら、きっと今回のツアーの興奮が鮮やかに甦るだろう。あのとき、僕たちは確かにつながっていたよな、と。

もっとも、今回のツアーが引き起こした高揚感や一体感を誰よりもしかと抱きしめたのは、他でもないChage自身かもしれない。一昨年末の『&C』ツアー、昨年の“細道”、そして今回のチャゲトルズ“再来日”ツアーと、いよいよ濃密な“今”を重ねて得た実感は、彼のなかできっと素敵な音楽に結晶化するはずだ。

音楽ライター 兼田達矢